【電子書籍】『ゴルコンダ』斉藤直子(惑星と口笛ブックス)
2019年4月30日配信
【電子書籍】
ゴルコンダ
斉藤直子 惑星と口笛ブックス
第12回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞『仮想の騎士』でデビューし、大森望編のアンソロジーのシリーズ 『NOVA』で熱心な読者を獲得した作家の待望の第1短篇集。
斉藤直子は稀代のユーモア作家である。似た作家は存在しない。空前の書き手である。斉藤直子の作品を好むか好まないかは、じつはどうでもよい。この作家は読者の好悪を越えて、山や川のようにそこにありつづけ、読むものを脱力しつづけさせるはずだ。
収録作は短篇が6作。いずれも「先輩」と「僕」が登場するので連作とも言えるだろう。
「ゴルコンダ」は先輩の彼女がある日、28人に増えるという話である。「僕」はヤカンを持って、28人に増えた恋人と結婚して郊外に新居を構えた先輩を訪問するのだが……。
サポートセンターに回された「僕」をめぐる怪を描く「禅ヒッキー」。
「僕」の開発したアプリが巻き起こす騒動「ティルティ・テイル」。
スラップスティックな展開のなかに、一瞬背筋を凍らせる瞬間を擁する「1ミリの彼女」。
会社ファンタジー「ミスミスレニアス」。三つの願い譚の最新の解決である。
20世紀の少年少女カルチャーのフェスのような「妖精ディストリビュータ」。
そして縦横無尽の修辞力を惜しげもなくふるう圧巻の中篇『草冠の鬼』は実在の剣道家山本忠次郎を主人公にすえた痛快無比かつ洒脱な明治ものである。読者はここに歴史小説あるいは時代小説の一流の書き手を見出すはずである。
400字詰め原稿用紙換算360枚。
『ゴルコンダ』は、ちょっとない感じの短篇集で、斉藤直子さんはほとんど知られていないのですが、ほんとに一流の作家です。陳腐な言い方ですが。そしておそろしいことに明治小説や「サンメダール教会の奇跡」で分かるように日本の幻想小説や歴史小説を拡げる筆力も備えている。すごい実力です。
— 西崎憲 (@ken_nishizaki) May 1, 2019